冬、メンヘラ達の邂逅(上)
ネットの海に揺蕩う一貫の寿司は、その日も何気なく誰かのキャスに入った。
シャリの一粒一粒を指のように動かし、コメントを残す。すると、実際に会わないかという話になった。話を聞くと地元が近いらしい。
寿司は「喜んで!」とコメントし、連絡手段をラインに切り替え日付の段取りを決めた。
オフ会なんて何年ぶりだろうか。寿司は高ぶっていた。高ぶりは被さるエンガワにまで伝わり、野良猫のように身が締まったかと思えば、室内に響くクラブミュージックに乗せてユラユラと揺れたりした。
体全体の興奮を感じながら、寿司は静かにその日を待った。
当日の朝、気温が低くシャリがうまく温まらない。眠たい目をこすりながら寿司は風呂に入り、身支度を整え始めた。
まだ時間があったのでのんびりシャリを磨いているとキャスが始まった。
彼女はうつこと言う。あまりの緊張で部屋を歩き回っているとのことだった。スクワットを提案したら腰を痛めるから嫌だと断られた。
うつこさんは電車でおとなしく座れるのだろうかと寿司は少し不安になった。とりあえず寝ないようにとだけ伝え、寿司は体にワサビと醤油を塗り始めた。
外に出ると思ったよりも寒くなく、日差しは暖かかった。
目的地までラインでやり取りをしながら向かう。実際に友人と遊ぶみたいでなんだか面白いなと寿司は思った。
うつこさんとは駅から乗り合わせたのでプレオフ会となった。
寿司は前々からメンヘラに大した非常に偏見を持っていた。すごい容姿を気にするか、その反対かという対極的なイメージが強かったのだ。うつこさんは以前クソ男に大変な目にあわされていたと聞いていたから、寿司は後者に近いおとなしい人を想像していた。
「今ついた」とラインを送り、駅のホームに入る。
その時、美人なお姉さんと目があった。
お姉さんはおそるおそるヘッドホンを外した。寿司もゆっくりとヘッドホンを外し、お互い少し間が空いた。
「あの、寿司さんですか?」
うつこさんはとても美人だった。おしゃれなワンピースにグレーのチェスターコートを羽織っており、すごく顔が小さかった。先ほどまで部屋で歩き回っていた人にはとても思えなかった。美人と会話をすると偏差値が50下がる寿司は、フィリピンから出稼ぎにきて1年目の女よりも語彙力が落ちていた。
「アッハッ、ドーモドーモ」
「初めまして!うつこといいます。もう改札の方行ったほうがいいですよね?」
「アッヘッ!ソデスネ!ヒッ!」
寿司はコミュ障でもあった。
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無事に目的地へ着くと他のメンバーも到着しているようだった。
寿司は定期にチャージをするためうつこさんにハジさんの捜索を任せた。
ハジさんもメンヘラ.JPに寄稿しており、以前からツイッターで仲良くしていただいている人だ。
キャスにもお邪魔したことがあったので、声のイメージから手が柔らかそうだなと寿司は踏んだ。
戻るとうつこさんがハジさんと合流していた。
ハジさんがぺこりと頭を下げたので寿司もつられてシャリを下げた。笑顔が朗らかで性格の良さがよく表れていると思った。寿司も思わずニコニコした。
「おまえちゃんはね、すぐわかると思うよ」
うつこさんが辺りを見回しながら言う。おまえさんはメンヘラ.JPのライターをしており、度々ファッションセンスが寿司の中で話題になっていた。寿司も「だろうな」と思いながら改札の方を探すと、やたらと情報量の多い人が目に飛び込んできた。
うつこさんが「おまえちゃ~~~ん!」と駆け出す。ハジさんと寿司も慌てて後を追った。おまえさんと思われる情報はこちらに気づき手を大きく広げうつこさんと熱い抱擁を交わした。
こうしてメンヘラ達は田舎に集結したのだった。
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